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非チフス性サルモネラ(Salmonella)菌血症を見たら【まとめ】

臨床を行っているとたまに見るサルモネラ(salmonella)による菌血症。注意すべき合併症も多く存在しています。臨床的にはチフスと非チフスに分類されますが、日本でチフスを見ることはほぼないので非チフス性のサルモネラ菌血症に絞りまとめてみました。

サルモネラの分類

サルモネラは種、亜種、血清型により数千の種に分類されますが人に感染するのはS.enterica subsp. entericaのみと言われています。臨床的にはより簡便に次の2種類で分ける事が多いそうです。

①宿主特異性による分類
  1. 臨床的にはヒトにのみ感染(S. typhi, S. paratyphi)
  2. ほとんど動物に感染するが例外的にヒトにも感染する(S. choleraesuis)
  3. 宿主に特徴のない自然界にどこにでも存在する(S. typhimurium, S. enteritidis, S. heidelberg, S. newport)
②チフスか非チフス
  1. チフス性:全身症状の強い腸チフスの原因となるS. typhiとS. paratyphiの仲間
  2. 非チフス性:食中毒の原因になるそれ以外の菌

チフス性は開発途上国で問題になるため、腸チフスは輸入例がほとんどです。

疫学

腸内感染の1%程度が菌血症となると予測されているが、一般的に腸管症状のみの場合には血液培養での確認を行わないため正確な値は不明である。Up to dateには世界中の65%が5歳未満と記載されており、小児で多いとされる。発症した場合には小児、成人共にハイリスク素因の検索が必要です。細胞性免疫障害で罹患しやすいとされておりHIV、悪性リンパ腫等の基礎疾患を考慮する。

感染のハイリスク要因
  • 腸管の異常
    Salmonellaは酸に弱いため、遺産が正常に存在するかどうかが重要。制酸薬の使用、胃切除、抗菌薬の使用等は感染成立しやすくなる
  • 細胞性免疫障害
    HIV感染、悪性腫瘍(悪性リンパ腫等)
  • 胆道系、尿路の解剖学的異常
感染経路

ヒト→ヒト、動物→ヒトでの経口感染です。

  • 鶏肉、卵、卵の殻
  • 生鮮食品、乳製品
  • 動物(爬虫類、両生類、家禽、ペット)

臨床像(非チフス性)

潜伏期間は経口摂取後から6時間〜2日である。大腸型(発熱、腹痛、下痢)が典型的な症状だが、軽症であれば水様便のみのこともある。下痢は3-7日間で改善し合併症をきたすことはないが、下痢が10日以上持続する場合には他の疾患を疑う必要がある。発熱も2-3日間で消失することが多い。重症化する場合には上記のリスクを考慮する必要がある。

注意すべき合併症

腸管外の限局性合併症

非チフス性サルモネラ感染症は尿路、肺、胸膜、心臓、長骨、関節、筋肉、中枢神経系等のあらゆる臓器に感染する可能性があります。また人工血管、人工関節等の人工物にたいしても感染しやすいです。

血管内感染症

サルモネラ菌血症の血管内感染症はそれほど多くはないですが、感染性大動脈瘤等は非常に重篤であり常に注意をしなければいけません。

持続菌血症や臨床経過の改善が芳しくない時には常にこれらの合併症を考慮することが重要です。

治療

治療適応

チフス性であれば抗菌薬は必要とされるが、非チフス性であれば一般的には抗菌薬を使用しません。抗菌薬使用により保菌状態を長引かせる可能性も指摘されています。

非チフス性で例外的に抗菌薬使用が認められている臨床状況
  1. 幼児(新生児〜3歳)、50歳以上(動脈硬化、動脈瘤などを守るため)
  2. 細胞性免疫障害:HIV感染、臓器移植、悪性疾患(特に悪性リンパ腫)
  3. 人工骨頭、人工関節、心臓の弁疾患、腎不全

上記の症例に限り2-3日 or 症状が消失するまで使用する

処方例
  1. シプロフロキサシン 500〜1500mg/日 分2
  2. レボフロキサシン 500〜700mg/日 分1
  3. ST合剤 4錠/日 分2
  4. セフトリアキソン2g 1日1回

抗菌薬の治療期間

リスク、腸管外合併症がない場合

通常は14日間

ハイリスクグループ

HIV/AIDS、悪性リンパ腫、骨髄移植後、固形臓器移植後等の細胞性免疫障害、免疫抑制状態にいる患者は決まった治療期間は存在していませんが4-6週間程度の治療が推奨されています。

耐性菌

近年フルオロキノロン、第3代セフェムに対する耐性菌が増えてきています。特にアジアで増加しており渡航歴には注意が必要です。耐性パターンは鳥、牛のそれと類似しており、家畜飼料に混入させる抗菌薬が原因とされています。

カルバペネムに対しての耐性はこれまでも報告はほとんどなく代替手段となります。

参考文献

感染症診療マニュアル
up to date