病気に関しての記事です。内容については医師免許を持つ内科医が記載しています。参考文献として世界的に使用されている“UpToDate”という医師向けの二次資料を使用しており、内容については細心の注意を払っています。
狂犬病ってどんな病気?
狂犬病は英語ではrabiesと呼ばれ、ラブドウイルス科のリッサウイルスに属するウイルスによる感染症です。日本でも有名な病気ですが1957年移行発生していません。ただ世界的に見ると毎年約6万人の人が死亡していると言われています。
日本ではペットの予防接種や検疫制度のおかげでほとんど感染する事はありません。ただ海外ではそのような対策は行き届いておらず感染リスクがあります。そして何よりも大事なのは発症したらほぼ100%死亡するという高い致死率を持つ病気です。
怖い病気ですが、しっかりとした知識と予防があれば発症リスクは限りなく下げる事ができます。
どこの国で流行しているの?
青く塗られているのが狂犬病の報告が全くない国です。ご覧の通り日本、オーストラリア、ニュージーランド、一部のヨーロッパの国を除いてほとんどの国で感染リスクがあるとされています。
途上国・先進国に関わらず海外に行こうと思っている人にとっては必ず覚えておかなければいけない疾患の一つです。
どこから感染するの?
- 動物に噛まれた時に唾液から感染する
- 舐めた爪でひっ掻かれる
- 傷口を舐められたり、唾液と粘膜の接触で感染
狂犬病という名前であり犬が最も感染源として多いですが、猫・コウモリ・アライグマ・スカンク・キツネ等のあらゆる動物で感染のリスがあります。
最も多いのは動物に噛まれた時に唾液にさらされる時です。また頻度は少なくなりますが噛まれなかったとしても動物が舐めた爪でひっ掻かれる、傷口・粘膜を舐められる等の場合でも感染のリスクはあります。
空気感染・エアロゾル感染等の可能性や、感染した患者様からの感染の可能性も研究されていますが、まず問題ないと言って良いでしょう。
リスクが高い動物というのはありますが、基本的にはどの動物からも感染リスクがあると考えておいたほうが安全です。
予防で大事なこと・予防接種の受け方
予防で大事な事
- 予防接種をする
- 動物に近づかない
- 異常な行動をしている動物に気をつける
また、蚊や寄生虫などの目に見えない生物と違い、狂犬病のリスクとなる動物は簡単に認識する事ができます。人懐っこい猫や犬に構いたくなってしまう気持ちはすごく分かりますが、何よりもまずはリスクがある事を認識して極力近づかない事が大事です。
ただ、どれだけ気をつけても急に襲われたりしたら完全に避ける事はできません。狂犬病は予防接種で防ぐ事が出来る病気であり、そんな時のためにも是非狂犬病ワクチンを打った上で海外渡航をするようにしてください。日本では人に対しての定期接種がないため自費で高額にはなりますが、安全のためにも大事な事です。
また一般的には海外でも予防接種を打つことはできます。日本よりも安く接種出来る事が多いので慣れている人はそちらの方法を試しても良いかもしれません。
また狂犬病に感染している動物は異常な行動を起こしている事が多いです。狂犬病という名前から想像できるように多くは理由も怒っていたり、気性が荒かったりします。特にそのような動物は気をつけていても向こうから襲ってくることもあります。そのような犬がいる場所には絶対に近づかないようにしましょう。
狂犬病は一旦発症すれば効果的な治療法はなく、ほぼ100%の方が亡くなります。
狂犬病にかかっているおそれのある動物に咬まれてしまった場合、直ちに十分に石けんを使って水洗いをします(傷口を口で吸い出したりしない)。その後、すぐに医療機関で傷口を治療し、ワクチン接種をします。発病前であれば、ワクチンの接種は効果があると考えられていますので、必ず接種してください(破傷風トキソイドを未接種の方は狂犬病ワクチンの接種とともに、破傷風トキソイドの接種も必ず受けてください)。事前に狂犬病の予防接種を受けている場合でも、狂犬病にかかっているおそれのある動物に咬まれた場合は治療を目的としたワクチン追加接種が必要となりますので、必ず医療機関で受診してください。
また、現地医療機関での受診の有無にかかわらず、帰国時に検疫所(健康相談室)にご相談ください。
狂犬病ワクチンは国内の医療機関で接種することが可能ですが、現在、狂犬病ワクチンの在庫が減少している状況に鑑み、狂犬病の流行地域からの帰国者で犬等に咬まれた方、狂犬病の流行地域への渡航予定者で犬等に接触する可能性が高い方に優先的に接種されています。渡航、滞在先で動物を対象に活動する場合や付近に医療機関がない地域に滞在する場合には、最寄りの検疫所にご相談ください。
http://www.forth.go.jp/useful/vaccination05.html
狂犬病ワクチンを接種する場合は、初回接種後、30日目、6~12か月後の計3回接種します。
どんな症状が起きるの?
どんな感染症?
狂犬病ウイルスは神経の感染症です。傷口から感染し徐々に脳・脊髄等の中枢神経に広がっていき脳炎の症状を引き起こし死亡に至ります。そのため狂犬病は痺れや意識・異常行動等の神経に関わる症状を引き起こします。
狂犬病の潜伏期間(噛まれてから症状が出るまでの時間)は1〜3か月が一般的ですが、噛まれて数日で発症したり数年後に発症する事もあったり幅が広いです。
初期症状
微熱、悪寒、倦怠感、筋肉痛、脱力感、食欲低下、喉の痛み、吐き気、嘔吐などの症状が数日から1週間程持続しますが、風邪のような症状であり気づくことは難しいです。
その中でも傷口周辺のみの痺れ、灼熱感等の異常な体温感覚は狂犬病に特徴的な症状です。
狂犬病症状
その後、狂犬病に特徴的な症状を発症します。異常な行動を起こすような脳炎と、体の麻痺をきたす2つのタイプが報告されていますが、人間では約80%が脳炎の症状と言われています。
脳炎性の狂犬病
発熱、興奮、恐水症(水への恐怖)、空気恐怖症(空気の流れを感じた時に症状を発する)、麻痺、昏睡、喉頭痙攣等の症状が特徴的です。これらの一連の症状を経て死に至ります。
恐水症というのは狂犬病で最も有名な症状の一つであり、水を恐れるような症状です。患者の33〜50パーセントで発生するとされており。何かを飲む時に喉の違和感・痙攣の症状を生じ、患者は突然水に対する強い恐怖を感じます。病気が進行すると水の光景や、水の話をするだけでこれらの痙攣を引き起こす可能性があります。
空気恐怖症も狂犬病の特徴的な症状ですが、9%程度と頻度は低いです。呼吸をする時の空気を流れを感じる時にけいれんを喉の痙攣を引き起こし恐怖を感じます。
その他にも自律神経が不安定になり、唾液が増える、涙が増える、発汗、鳥肌、瞳孔の拡張等の症状を起こすことがあります。また、興奮と攻撃性の増多も患者の約50%と良く見られます。
麻痺性狂犬病
こちらは手足が動かないなどの麻痺の症状が特徴的であり、狂犬病患者の20%未満と言われています。かまれた手足から症状が始まり、徐々に頭の方へ症状が進行していきます。麻痺が進行していくと呼吸の筋肉も麻痺してしまいます。
診断方法は?
狂犬病の確定診断には遺伝子検査、抗体検査等の手順を踏む必要がありますが一般的にはすぐに検査をすることは難しいです。
日常診療では、まずは患者様の病歴・症状からの診断が最も重要です。診断のためには正確な状況が必要であり、どこで・いつ・何に・どこを噛まれたか、今どのような症状があるのか等の情報が非常に重要となります。もし被害に合われた場合にはその事を念頭において極力状況を医療者に説明出来るようにしてください。
治療方法は?
狂犬病は発症したら基本的には治療ができない、致死率がほぼ100%の病気とされています。そのため何よりも予防が重要となります。
ただ感染と発症は違います。もし狂犬病に感染している動物に噛まれて、ウイルスに感染したとしても適切な対処をすれば発症率は低める事ができます。そのため適切な知識を得ることが重要です。
動物に噛まれた時にはどうする?
狂犬病に感染している動物に噛まれ、ウイルスが体内に入ったとしても適切な対応を取ることでほぼその発症を防げます。稀に不適切な対応(傷口の処置が不十分、ワクチンの投与が不適切)で発症したという報告はありますが適切に対応すれば発症を防ぐ事が可能です。
- すぐに傷口を石鹸と十分な水で洗う(絶対に傷から口で吸い出そうとしない)
- 医療機関を受診して傷口の処置を行う
- ワクチン接種を行う(予防接種を受けている場合でも追加接種が必要)
必要に応じて破傷風ワクチンも接種推奨 - 帰国時に検疫所(健康相談室)で相談する
こちらが一般的に大事と言われている対応方法です。動物に噛まれた時に焦ってしまうかもしれませんが、まず出来ることは傷口を洗うことと病院を受診する事だけです。落ち着いて対応して近くの病院で相談をしてください。
狂犬病ワクチンの接種についてはWHOで定められた基準があります。基本的には受診した病院の医師が傷口の状態と病歴から判断をする事になりますが、もしよければこちらも参考にしてください。
<動物との接触状況、傷口の状態に応じたワクチン接種>
カテゴリー | 接触の状況 | 対策 |
Ⅰ(危険性なし) | 動物に触れたり、餌を与えた。 動物に傷口のない皮膚を舐められた |
ワクチン接種の必要なし |
Ⅱ(低い危険性) | 出血のない小さなキズや擦り傷 むき出しの皮膚をかじられる |
創部洗浄 迅速なワクチン接種 |
Ⅲ(高い危険性) | 皮膚を貫通するかみ傷やひっかき傷、粘膜や傷のある皮膚を舐められる事による動物の唾液との接触 コウモリとの直接的な接触 |
創部洗浄 迅速なワクチン接種 必要に応じて免疫グロブリン推奨 |
※免疫グロブリンというのは感染を防ぐ役割を持つタンパク質の事ですが、特に頭部に近い部位の咬傷を受けたカテゴリーⅢの場合に推奨されています。暴露後すぐに打つ必要がありますが手に入れる事ができない場合もあります。免疫グロブリンが使用できない場合であっても適切な対応で95%以上防ぐ事が出来ると言われています。
暴露後ワクチン接種
日本での暴露後接種は0日、3日、7日、14日、28日、90日の6回です。ただ地域によってワクチンの種類、接種方法、接種回数が異なりますので、実際に使用する国でのワクチンの種類・接種方法の情報を聞いておくことが重要です。ワクチンの種類と回数によっては、最初から接種し直すこともあります。
まとめ
海外に行く際には健康・安全面でも配慮しなければいけない部分が多数あります。特に狂犬病という病気は発症した場合の致死率は100%でかつ治療方法もないという恐ろしい病気です。
ただ知識があれば防ぐ事ができるという病気でもあります。この機会に是非この病気を知り、安全な海外生活を送ってください。