病気に関しての記事です。内容については医師免許を持つ内科医が記載しています。参考文献として世界的に使用されている“UpToDate”という医師向けの二次資料を使用しており、内容については細心の注意を払っています。
FORTH(厚生労働省)や国立感染研究所のHPでも情報を得ることができますので参考にしてください。
A型肝炎ってどんな病気?
A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)によって引き起こされます。肝臓の強い炎症である急性肝炎を引き起こし、様々な症状をきたします。
衛生環境が悪い地域で流行するため最近の日本ではほとんど報告がなく、50歳以下の人はほとんど抗体を持っていないと言われています。そのため特に途上国に行く日本人にとっては注意をしなければいけない疾患の一つです。こちらはワクチンで予防出来る疾患であり、出国前に是非この病気について知り、予防接種を打つようにしてください。
どこの国で流行しているの?
“FORTHより引用”
A型肝炎は世界的には流行しており、毎年推定140万件の症例が発生しているとされています。特定の地域で流行する等の地域性があるとされており、出国前には外務省ホームページよりその国の情報を仕入れておきましょう。
日本も昔は流行していましたが、現在は衛生環境の改善もありほとんど報告がありません。また、ワクチン接種の励行と共にHAVの発生率は大幅に減少しています。
どこから感染するの?
糞便に汚染された食物を食べる事によって感染
A型肝炎ウイルスはヒトからヒトへ感染するウイルスです。糞便にウイルスが排出され、それを口で接種することで感染します。直接糞便が口に入ることはまずありませんが、様々な経路で口に入ることで感染します。
糞便から排出されたウイルスが、ヒトの手を介して水や氷、野菜や果物、魚介類を経て口に入ります。食事以外でも感染したヒトと接触する事があれば、なんらかのきっかけに口に入り感染する可能性はあります。
予防で大事なこと・予防接種の受け方
予防で大事な事
十分に加熱処理された食事をとるようにする
衛生状態があまり良くない地域・店では水、氷、肉、野菜等にウイルスが付着されている可能性があります。ちゃんとした店だと思っていても、どのような調理をしているかはわかりません。
ほとんどの人は飲料水に気をつけていますが、カットフルーツ、生野菜、ジュース等は盲点となりやすいです。中には飲料水にはミネラルウォーターを使用しているが、氷は水道水を使っているという店も少なからずあるそうです。
ただ、全て自分で調理し、店の物を買わないというというのは非現実的です。せっかくの海外生活を楽しんでほしいという思いもあります。
HAVは予防接種でほぼ防ぐ事が出来る病気であり、リスクがある地域に渡航する場合には必ず接種を考えてください。
予防接種の受け方・スケジュール
海外と日本のワクチン接種方法はやや異なります。日本での接種は安心ですが保険が使用できないため高額です。また、効果や投与回数も異なります。海外では日本と比べると安く接種でき、かつ効果の持続期間も長いため、出国後にワクチンを接種される方も多いです。
海外のワクチンは接種回数も少なく、かつ持続時間が長い物も多いです。ワクチン後進国と呼ばれる日本ではなく、海外で世界標準のワクチンを接種するのも良い選択肢の一つです。
<A型肝炎ワクチンの比較>
ワクチン名 | 接種部位 | 摂取回数 | スケジュール | 効果持続時間 |
エイムゲン(日本) | 筋肉内または皮下 | 3回 | 2回目:2-4週後 3回目:6ヶ月後 |
約5年間 |
Harvrix(米国) | 筋肉内 | 2回 | 2回目:6-12週後 | 約20年間 |
Vaqta(米国) | 筋肉内 | 2回 | 2回目:6-12週後 | 約20年間 |
日本
日本ではエイムゲンというワクチンが使用されています。2~4週間の間隔で2回接種し、約半年後に3回目の接種をすると免疫が強化され、5年間は有効といわれています。値段は1回8000円程かかるので、合計で24000-30000円になります。
海外
使用出来るワクチンはその国によって異なるため、必ず現地の医師・医療機関に確認してください。
アメリカでは不活化ワクチンという種類のHAVRIXとVAQTAという2種類が使用されています。投与回数はどちらも初回投与から約半年〜1年間あけて打つ2回投与で終了し、効果は20年間持続すると言われています。
どんな症状が起きる?重症化リスクは?
症状
潜伏期間
ウイルスに感染した後にすぐに症状が出るわけではありません。体内にウイルスが増殖しその後に症状が出現します。その期間を潜伏期間と言いますが、A型肝炎ウイルスは平均28日(2-7週間)の潜伏期間後に症状が出現します。潜伏期間が長いため帰国後に発症するということも十分にありえます。
症状
感染しても症状が出現しない人がいます。ただ成人は症状が出現しやすく、成人の70%で症状が出現します。6歳未満の小児では症状が出現しない場合もあります。
発熱、全身の倦怠感、腹痛、食思不振、嘔気嘔吐が見られます。またその数日後に黄疸(皮膚や目が黄色くなる現象)が現れたり、尿が濃く(ビリルビン尿)なる事もあります。特に成人は小児よりも強く症状が出やすいです。
症状は2-4週間でピークに達し、その後自然と改善していきます。約85%の人は2-3ヶ月には完全に症状が改善する事が多いです。そして約6ヶ月後には採血上のデータも完全に回復します。A型肝炎はB・C型肝炎と違い慢性的に感染する事はないためその心配はありません。
重症化するリスクは?
致死的になるような重症な症状はほとんど起きませんが、極稀に劇症肝炎と呼ばれる強い肝臓の炎症、肝不全をきたし死亡・肝移植が必要となる例もあります。50歳以上の高齢者や、B・C型肝炎等の他の肝臓の問題がある患者さんに多いと言われています。
A型肝炎はワクチンで防ぐ事が出来る病気であり、リスクがある地域に行く方は必ず接種してほしいワクチンの一つです。
診断方法は?
A型肝炎はいつ疑う?
- 症状(吐き気、食思不振、発熱、倦怠感、腹痛)
- 黄疸(ビリルビンの上昇)、肝臓の炎症(AST/ALTの上昇)
- リスクのある地域への移動、行動、食事
A型肝炎はまず上記のような症状、病歴があった際に疑います。日本のように抗体検査が可能な国では、感染初期にあがる抗体である血中のIgM-HAV抗体が上昇していれば診断となります。
抗体検査ができない国であっても、A型肝炎は自然と改善する病気であり慎重に経過観察ができればほとんどの場合問題はありません。
感染したらどうする?治療方法は?
治療方法
A型肝炎は時間と共に自然と改善していく病気です。特別な治療法はありませんが、安静にして抗体が出来るのを待てば治ります。入院が可能であれば血液検査等で重症化、劇症化しないことを確認出来れば問題ありません。
症状は数週間〜3ヶ月程度続く事もあるため、その症状に応じて治療を行います。
感染予防について
A型肝炎は人から人へ感染する病気であり、家族やその他の医療者に感染が広がらないように考えなければいけません。ウイルスは患者さんの糞便に排出されるため、その事を念頭に置きながら手洗いの励行などの予防を行う事が重要です。
まとめ
A型肝炎は重症化は少ないものの、感染すると強い症状により長期の入院が必要となってしまう場合もあります。また食物から感染する病気であり、海外で生活している以上は常にそのリスクがつきまといます。
より良い海外生活を送るためにも是非渡航前、もしくは渡航後すぐにワクチンの接種を検討してください。